「どうしたら、イラストレーターになれますか?ぜったいなりたいです」 という質問をされることが時々あります。
美大、専門学校に行けばなれるんじゃないかと思っている人も多いようです。 ステップのひとつとして否定はしませんが... その過程を通過したからといって、イラスト描きのプロとして永くやっていけるとは限りません。 お金を払って、カリキュラムについていけば何とかなるだろうというと考えているような、学校にお任せの人は、多分プロとしてやっていけないと思います。
プロとして太く生き延びていくためには、絵以外のマニアックに突っ込んだ専門知識が強力な武器となります。 絵は描けて当たり前の世界ですから。 私は、一般的な大学で好きな歴史を学びました。 仕事を通して学んだ生物の知識も役に立っています。
学生の頃は、沢山のイラストレーターや漫画家のアシスタントをしました。 一番仕事のキツかった漫画家さんのところでの経験が、プロとしてやっていける画力を養ってくれました。
とは言え、色々な絵仕事を見てみると、圧倒的な画力というか、絵が上手いことが絶対条件というわけではないようです。 私はハッキリ言って、絵は下手です。 絵の腕前に自信があるというだけで、プロになろうと思っている人は多そうですが、プロの世界というものは、そういうものではないかもしれません。 お客さんが望むものを適確に把握し、時間の有る無しにかかわらず何十枚描いても望む水準を維持して、望む期日に納めることが一番大切です。 更に、気を利かせて、お客さんの指示には含まれていなかった諸知識や配慮、そして絵描きの能力をプラスαとしてコッソリ織り込みます。 (実は、そのくらいやって、初めて「こういうのが欲しかった。狙い通りだ!」と喜んでもらえたりします) プラスαが無いと「一応OKだけど、あの絵描きはショボイな」という印象をもたれるでしょうし、 逆に、上手い絵やプラスαだけでは、必要な条件を満たしていないので「素人だな、使えないね」ということになりそうです。 なにしろ、商品を納めてお金をもらうビジネスですから、 「俺はこんなに才能あるし、いつか認められるぜ」 「私の絵は個性的だから、プロになれる」... では、難しいです。 お客さんが求めてもいない品を、手前勝手にいくら生産しても、ビジネスにはなかなか繋がらないでしょう。 白馬に乗った王子さまを待っていても... イラスト専業で食っていくなら、軽いカットや漫画絵、かっこいいリアルイラストそれから学術的なリアル図版と、絵柄はクライアントの狙いに応えて、何でも描けるのが望ましいと思います。
かわいい絵柄1個や意表をついた「個性的な」絵だけでは厳しいです。 バブルの頃は、その程度でも仕事はあったのですが... 現在のご時世、それでは、宝くじを当てにして生計を立てるようなものです。 イラストの仕事は、数年〜数十年後はもっと厳しくなるかもしれません。
特定の出版社から、運良く漫画アニメ風の絵の仕事をもらったとしても、散発的に使ってもらえる程度か、絵を飽きられて失業する可能性も高いです。 回転の速いジャンルですし、描き手の控え選手は幾らでもいますから。 やはり、あの中で何十年も君臨するのは、宝くじに高額当選するようなものです。
イラストレーターとして芽が出るまではフリーターで生活費を稼いで... という考え方はやめた方が良いでしょう。 バイトしないとやっていけない人は、プロとしての能力を低く見られます。 また、現実面として、使い勝手の良い描き手に仕事が集まります。 イラストを依頼しようと思っている側からすると、頼みたい時にバイトで留守だったりスケジュールが詰まっているような人には仕事を頼みたくないものです。 イラストレーターに仕事が廻って来るころには、製作のタイムリミットが近くて、締め切りが切羽詰まっている場合が多いですから。 バイトの片手間では、大量のまとまった発注に応えらませんし。 こなせないからと断ったら、そこからは、もう次の仕事は来ないかもしれません。 無理して引き受けて、こなせなかったら、それこそ致命的です。
たまに仕事をもらって、自分もプロだと大喜びしている人が案外と多いのですが、バイトの片手間でやっている限り、イラスト一本で暮らしていく道は遠く険しいと思います。 歳をとるにつれて悲惨な人生となるでしょう。
お薦めする方法は... ■絵以外の突っ込んだ専門知識も身につける。 ■アシスタントになってプロにしごかれてみる。 ■「描きたい」と思った脳内の映像に食らいついて徹底的に描いてみる。 ■苦手克服の為の自主練を欠かさない ■アシスタントや自主練で腕を上げたら、イラストの描き手を求める会社にもぐり込む。 ・イラストの会社 ・デザイン会社 ・ソフト製作会社その他... 一生の仕事とするのなら、会社で数年働いて、作画能力を磨き、業界のしくみをよく学んで、十分一本立ちできるようになってから独立するのも悪くないと思います。
・・・私は大分長く描いてはきましたが、自分の絵が下手だなぁという不満がいっぱいで、いまだに修行に努めています。 今は、ネットで様々な人の作品を観られるので大変刺激となっています。 ネットを始めてから数年、自分の絵の進歩は大きかった... 過去十年分以上の進歩だと思います。
同世代の知り合いの描き手の多くは絵が枯れてきています。 常に色々魅力的な絵柄に挑戦してみないと、慣れたスキルによる絵の単純再生産では絵が枯れます。若くても枯れてしまいます。 枯れた絵は魅力が無いので仕事が減ります。 本能のように向上心は持ち続けた方が良いでしょう。
あとは、営業力。 作画作業に忙殺されて営業を怠ったりすると、いつの間にか仕事の口が減っていたりします。 サラリーマンと違って、フリーの専業は油断するといつでも失業者の運命が待っています。
結論:普通の勤め人の人生を選ぶ方がモアベターかもしれません。
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