1961年制作の怪獣映画『モスラ』の劇中、小美人役のザ・ピーナッツが歌った『モスラの歌』について少し研究。 この歌は、子供の頃は、異国情緒を醸し出すためのカタカナ出鱈目言葉だとばかり思っておりました。 しかしながら、あらためて聴いてみると、インドネシア語に比定し得る単語が多く、しかも意味も通じるので、モスラへの祈りの歌は、インドネシア語であろうということで、訳を試みました。 ♪モス〜ラヤ モスラ〜♪ で始まるあの曲です。
****************** カタカナ歌詞は、以下のようなインドネシア語が当てはまるようです。 ↓ Mothra ya Mothra. Dengan kesaktian hidupmu. Restulah. Doa hamba-hambamu yang rendah. Bangunlah dan tunjukkanlah kesaktianmu. さて、これをカタカナ表記にしてみると... モスラ〜 ヤ モスラ〜 ドゥガン クサ〜クティヤン ヒドゥッム〜 ルストゥラハ ドア ハムバハムバ〜ム ヤン ルンダハ バグンラハ ダン トゥンジュカンラ〜ハ クサクティヤ〜ンム |
いかがですか?現実に知られている"モスラ"のカタカナ歌とは若干ことなりますね。 でも、このカタカナ歌で歌えば、インドネシアの人にも通じると思います。 ◇ラ行の「r」は巻き舌、「l」は舌先を上の前歯の裏につける発音。これを区別しないと通じません。 ◇モスラ/Mothraの「ス」は英語の「th」発音ではありません。 ◇「Bangunlah」などの「ng」は鼻濁音。「バングンラー」ではなく「バグンラー」です。 ◇「Dengan」「rendah」「 kesaktian」「Restulah」などの「e」は、「ウ」と「エ」の中間くらいの曖昧で弱い発音の「ゥ」です。「デガン」や、ハッキリした「ドゥガン」ではなく、敢えて表記すれば「ドェガン」が近いかなぁ... ◇「hidup(mu)」は「ヒドゥップ(ム)」ではなく「ヒドゥッ(ム)」です。「p」は発音しませんが、発音する寸前の寸止めという感じで、耳の慣れた人には語尾が「P」だなとは判るような音です。この『モスラの歌』には出て来ませんが、語尾が「p」以外、「t」「k」なども同様です。 ◇単語の語尾の「h」はノドから吐き出す息のような感じです。
・・・とはいえ、厳密な発音などは置いといても、このカタカナ歌詞ならば、意味を持った歌、デタラメではない、原語に即した言葉になります。
****************** ya(〜よ、〜ね) dengan(〜で、〜によって、〜と) kesaktian(魔力) hidup(生命)mu(君の) Restu(加護、恩恵、祝福、魔力)〜lah(〜せよ) Doa(祈り、祈る) hamba-hamba(奴隷、下僕達)mu(君の) yang(〜の、〜のもの) rendah(低い、卑しい、下級の) Bangunlah(起きよ、目覚めよ) dan(〜と、そして) tunjukkanlah(示せよ) kesaktian(魔力)mu(君の) ****************** 日本語訳。 ↓ モスラや モスラ。 君の命の魔力で、 君の卑しき僕(しもべ)達の祈りに御加護を下さい。 お目覚め下さい、そして お示し下さい、君の魔力を。 ****************** |
全体的に見て、呪術の言葉にしては、かなり口語的です。 呪術的な祈りや頌歌なら、ヒンドゥー系(サンスクリット語)の雅やかな古語や、ジャワ語などの地方語の古語を多く織り交ぜても良さそうなところではあります。 しかし、このモスラの歌のインドネシア語は、平易な共通言語であるインドネシア語の日常的な口語で構成されており、古典的な響きは薄いように感じられます。 これは、『モスラ』の日本人スタッフが、元となる日本語の詩を考え、 当時日本に来ていたインドネシア人(おそらくは、あまりインドネシアの古典に造詣の深く無い若者)に、こだわらずにとにかくインドネシア語なら良いということで翻訳を頼んだのではないかと推測しております。 そしてそれを、いささか誤ったカタカナ表記にしてしまったのではないでしょうか。
実は劇中で、神秘の文字の刻まれた石碑が、モスラの歌の訳にかなり近い祈りの言葉を語っておりました。
モスラよ 永遠の生命よ モスラよ 哀しき僕(しもべ)の祈りに応えて 今こそ 蘇れ |
2005.10.28作成
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