覚(さとり)



異名、類縁・・・「山鬼(さんき)」/(やまこ)」/「山男(やまおとこ)」/「山父(やまちち)」「黒ん坊(くろんぼう)」/「山童(やまわろ)」等。

「飛騨美濃の深山に(やまこ)あり。山人呼で覚と名づく。色黒く毛長くして、よく人の言(こと)をなし、よく人の意(こころ)を察す。あへて人の害をなさず。人これを殺さんとすれば、先その意(こころ)をさとりてにげ去と云」
(鳥山石燕『今昔画図続百鬼』)

「飛騨美濃の深山に(やまこ)がいる。山地の人々は、これを覚と云う。色が黒く毛が長くて、よく人の言葉を話し、よく人の心を見抜く。わざわざ人間に害を与えたりはしない。しかし、人間がこれを殺そうとすると、まず、その心を覚って(見抜いて)逃げてしまうと伝わっている」
(現代語訳)


関東から近畿に広く伝わるお化けで、猿や狒々(ひひ)のような姿で、黒く長い毛に覆われているという。深山に棲む。日本の昔話に登場する。
人の考えていることを見抜き、捕らえようとしたら、直ぐに逃げ出てしまうために、捕らえることは出来ない。

樵(話によっては、猟師や炭焼など)が、山小屋で火を焚いていると、悪い覚のお化けが現れ、樵の心を読み、隙あらば取って喰おうとした。
樵が、「怖い」「喰われる」「逃げよう」などと、心に思った事を、読まれ次々に言い当てられてしまう。
たまたま樵が、囲炉裏に薪をくべた時、火がはぜて欠片が覚にぶつかった。覚は驚いて逃げていったという。

『山父のさとり』
桶屋が、雪の寒い朝、外で桶を作っていると、山から一つ目一脚のお化けが現れ、桶屋の心を読み、次々に言い当てる。桶屋は「これが昔から伝わる山父か」と、おののいた。
桶屋が寒さと恐怖にふるえながら作業をしていると、不意に手が滑り、桶のタガの端が、山父の顔をバチンと打った。
山父は、これにひどく驚き、「人間は思ってもいない事をする。何をされるかわからん」と、山へ逃げ帰って行った。
(柳田国男編『日本の昔話』より)

樵が斧で木を打っていた時に、偶然に欠片をくらった覚が、驚いて逃げ出す...等のパターンもあり、類話は多い。
いずれにせよ、覚は、人が思いもせずにおこした行動には弱く、恐怖を覚え、逃げ出してしまう。


※妖怪「覚(さとり)」の由来
『本草綱目』(李時珍著、中国明代の博物誌的書物)に記された「(チュイ)」という怪物。姿は二足歩行の老猿。
色は青黒く、人のように歩き、よく人や物を攫う。雄ばかりで雌がいないため、人の女を捕らえて子供を産ませる。
」の名は、人を攫う(さらう)ことに由来する。 「(チュイ)」については、人心を読む特性は描かれていない。

我が国の江戸時代の百科事典『和漢三才図会』では、『本草綱目』の「(チュイ)」を引用し、「(やまこ)」と記し、「」は、我が国の「黒ん坊(くろんぼう)」というお化けと同類ではないかと推測している。
「黒ん坊(くろんぼう)」は、飛騨、美濃の深山に棲む。黒く長い毛に覆われ、大きな猿に似ている。 人のように立って歩く。人の言葉を解し、人の心を読む。 人が「黒ん坊」を捕って殺そうとしても、「黒ん坊」は直ぐに逃げるため、捕えることは出来ないという。

(カク)」は「覚(かく)」に通じる。「覚」には「さとる/さとり」の意味がある。
この事から、人の心を「攫い」、そして「悟る」、二足で歩く黒い猿のような獣/お化け、「覚(さとり)」のイメージが形作られていったのかもしれない。


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