葛の葉(くずのは)

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葛の葉(くずのは)
阿部仲麻呂の子孫、安倍(阿部)保名と恋に落ち、陰陽師・安倍晴明の母となったという伝説に結びつけられた白狐の化身。

葛の葉と保名は仲睦まじく暮らすようになり、やがて一子を得た。
ある秋の日、葛の葉は、咲き乱れる菊とその香に、うっとりと心奪われ、その隙に白狐の本性を現してしまった。
息子童子丸(後の屈指の陰陽師、安倍晴明の幼名)は、母の本性を見取り、怖れ泣いた。
本性を知られてしまった葛の葉は、念いを残しつつ保名のもとを去る。
葛の葉の置き手紙「恋しくば たずね来てみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉」を読んだ保名は、たとえ狐であっても、葛の葉への想いには変わりは無く、息子童子丸を連れて信太の森の妻のもとに赴く...
「・・・うらみ葛の葉」のところに「恨み葛の葉」と文字を当てる場合も見られるが、これは、白っぽい葉の裏が見え隠れする(裏白)の葛の葉に、愛する者と別れなければならない異類の交わりの恨みを掛けたものであろう。 ちなみに、信太森葛葉稲荷神社の紋は、裏白の葉が見える葛の葉の意匠である。

浄瑠璃など、世に知られる幾筋もの物語のバリエーションがある。
おそらくは、元となった古い古い伝承があると思われる。
あるいは、弥生、縄文の人々の親しんだ物語があったのかもしれない。
記録に残っているところでは『日本霊異記』に、人と狐の異類婚姻譚として現れ、これが、後の葛の葉伝説へと枝葉を広げていったようよだ。
あるいは、中国の伝奇にある『任氏伝』も、日本の物語に影響を与えているかもしれない。

欧州の場合、キリスト教支配のためか、結ばれることとなった異類は、結局は魔法で姿を変えられた高貴な人間であったとする筋が常道であり、異類と人間との間には交わりの断絶が見られるが、
日本の昔話の多くやアジアの物語では、人と異類が交わり結ばれる物語が多い。人と動物が同じ目線に存在し暮らしている。


ここに描いた絵では、旅立つ身の市女笠姿を選んだ。
哀しい別れの旅姿にしたい...
あの装いは女性の美しさを引き立てる。
市女笠姿は、上流女性の旅装束。平安中期くらいから。
市女笠姿の葛の葉の絵は、まだたぶん無いだろう。
ほとんどの場合、江戸期の女性の装束で描かれている。
江戸期の描き手はアナクロニズムというか...それすらも、どうでも良かったらしい。
江戸の絵師が古代中世の装束を知らなかったり、全く資料が無かったわけでもないようだ。
あるいは、受け手にとっての同時代性を持たせた方が感情移入し易いという選択か。

結局、様々な葛の葉物語の、どの設定でも描き手の好みで選んで良さそうだ。
■飛鳥から江戸期までと無茶苦茶アバウトな時代設定からの選択...
(安倍安名〜晴明との後付け的な関係により、平安の世が背景になっている場合がポピュラー)
■農民に身をやつした夫の妻...農婦姿...
■かなり上流の女性...
ストーリーの違いによって選択肢はいくらでもある。

妖怪講座の機会を得て、千葉幹夫先生から時代考証について色々とお話を伺えたのは嬉しかった。
もし、農婦だとしたら、服はおそらく麻か、それこそ葛を砕いた繊維から作ったような粗末なものらしい。綿は無い。
「冬はたまらないくらい寒かったでしょうね」先生の談。


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